全国コラム > グループホームの競合は同業者ではない——本当のライバルは実家

グループホームの競合は同業者ではない——本当のライバルは実家

障害者グループホームの事業所間で顧客を奪い合う構図は、市場の表面にすぎない。最大の壁は、本人が「親ががんばり続ける実家」から動かないという構造にある。家族の不安はインターネット上の相談として可視化されるが、申し込みという行動には転換されにくい。したがって需要は、待機や潜在的な検討として埋もれたまま顕在化しにくい。

知恵袋に見る「50代・親と同居」の実像

Yahoo!知恵袋には、障害のある本人や家族による相談が継続的に投稿されている。2026年6月6日の投稿では、精神障害のある50歳の相談者が実家で暮らしている現状を説明したうえで、グループホームの空き待ちをしておいたほうがよいか尋ねている。同年5月19日の投稿でも、精神障害2級で50歳になる相談者が、母親との二人暮らしを続けている状況を明かした。いずれも「今すぐ入居する」ではなく「先々に備えて動くべきか」という迷いを、具体的な年齢とともに記している点が共通する。50歳という年齢は、本人にとっても親にとっても同居の継続が現実的に難しくなり始める節目であり、だからこそ相談という形で表面化したと考えられる。

こうした迷いが需要として可視化されにくいことは、別の投稿からも読み取れる。2023年4月4日の投稿では、空き部屋が出た場合の対応を尋ねる質問に対し、「利用希望者に対して数が足りてない」という回答が寄せられている。申し込みという行動に至る前の相談段階で止まっているケースが、一定数存在すると考えられる。事業所の空室状況を見ただけでは、こうした潜在的な検討者の存在を把握できない。

「親亡き後」まで動かない典型的な構造

知恵袋の相談に共通するのは、本人の意思よりも親の体力が意思決定の起点になりやすい構造である。精神障害のある50代の子どもと同居する親もまた、相応に高齢化が進んでいると考えられる。それでも相談の多くは「今すぐ」ではなく「先々のために情報を集めておきたい」という段階にとどまる。すなわち、親が生活の支えを担える限り、グループホームへの申し込みという具体的な行動は先送りされやすい。

この先送りは、親の側の意思というより、実家という環境が持つ慣性によって生じている面が大きい。同居を続けること自体が新たな判断を必要としないのに対し、グループホームへの申し込みは転居・費用・本人の同意など複数の判断を同時に要する。判断の負荷が低い現状維持が選ばれやすい構造だといえる。この構造が続くかぎり、需要は「顕在化した申し込み」ではなく「潜在的な検討」として滞留する。事業所側が見学や問い合わせの件数だけを追っても、実際の需要規模は把握しにくい。

実家の代わりになり得る選択肢を比較する

実家に代わる選択肢は、グループホーム以外にも複数ある。入所施設は常時の支援体制を確保できる一方、施設数や定員に制約がある。病院への入院は医療的な管理が可能だが、長期の生活の場としては想定されていない。一人暮らしに訪問系サービス(ホームヘルプ等)を組み合わせる方法は、自立度が高い場合の選択肢になり得るが、緊急時の対応や孤立への懸念が残る。グループホームは、この中では日常的な見守りと一定の自立性を両立させる位置づけにあるが、それが本人に適するかどうかは個々の状態によって異なる。

なお、ここで扱う障害者グループホーム(共同生活援助)は、高齢者向けの認知症対応型共同生活介護とは別制度である。根拠法・対象者・サービス内容が異なるため、混同しないよう注意したい。

どの選択肢を選ぶかは本人や家族の状況によって異なり、個別の判断は本稿の範囲を超える。重要なのは、実家での同居が「選択の結果」というより「他の選択肢を検討しないまま続いている状態」であるケースが少なくない、という構造上の指摘である。

空室があっても需要はある——2万人超の待機が示すもの

共同通信の全国調査(2026年8月2日配信)によれば、施設利用を待っている障害者は延べ2万人超にのぼり、この数字は30都府県が把握している分に限られる。残る17道府県は未把握または非公表であり、実態の全体像は数字だけでは分からない。都道府県別の例では、広島県が1,763人、岡山県が1,598人と報告されている。

この規模の待機は、知恵袋に見られる「先々のための相談」が一定数、実際の申し込みへと転換されていることを示唆する。同時に、家族が実家での同居を続けているかぎり申し込みに至らないケースも多いと考えられ、報道された延べ2万人超という数字は、顕在化した需要の一部にすぎない可能性がある。開設を検討する側にとっては、見学や問い合わせの少なさだけを理由に需要がないと判断することには注意が必要である。競合として意識すべきは近隣の同業事業所である以上に、動きにくい実家という選択肢そのものだといえる。

→ お住まいの町の数字を調べる(市区町村別データ)

このサイトの「グループホーム」について

本サイトの数字はすべて障害のある方向けのグループホーム(共同生活援助)です。高齢者向けのグループホーム(認知症対応型共同生活介護)は含みません。名前が同じでも別の制度です。

数字の出どころ(すべて公的データ)

事業所の数と一覧=WAMNET 障害福祉サービス等情報公表システム オープンデータ(2026年3月末時点)/人口=総務省 住民基本台帳(令和7年1月1日現在)。詳しくは出典とデータについて

数え方の注記

「この1年の増減」=2025年3月末→2026年3月末の掲載数の差(開設・掲載開始・廃止を含む)。複数の町に住居を持つ事業所は代表の町で数えています。